※写真はイメージです
かなり前のはなし。
日曜の朝、通勤のため始発のバス停からいつものバスに乗り込んだ。
片道約40分のちょっとした旅になる。
平日はそこそこ乗車している人がいるのだが、日曜日なだけにバスの中はかなり空いている。
小さい頃からバスに乗るときは、運転手さんのすぐうしろの座席を陣取って運転手さんと乗客の間にあるパーテーションの横から運転を観るのがひとつの楽しみだった。
それは今でも変わらないが、車の免許を取り自分で運転するようになってからはバスに乗る機会も減り、それだけではなく、コロナの影響からか運転手さんのすぐうしろの席が無くなっている車両が多くなってきた。
いつものように運転手さんのすぐうしろを陣取ってパーテーション横から運転手さんの運転を観ていた。当然ながら道はいつもより空いているので、バスは途中々々のバス停で時間調整をしながら、ゆっくりと時間を運んでいた。運転手さんのマイクアナウンスにより「発車します」「次○○で止まります」と運転手さんの人柄も伝わってくる。乗客の中には日曜ならではである、首からタオルをぶら下げテニスラケットを片手にし、バスから降りた瞬間に練習を開始しそうなおばさまたちが後ろの席を陣取り4人で井戸端会議をしている。その他の乗客は途中で乗ってきては降りての繰り返しだった。
そろそろ目的地近くになってきて、あと300~400mくらい直進するといつも降りるバス停がある。その300~400mくらい手前の交差点から道が狭くなっていた。バス同士がすれ違うためにはどちらかのバスがちょっと広めの場所を選んで待ってくれると、もう片方のバスが通っていけるというくらいの道幅になっている。比較的狭い道ではよく目にする光景だ。今回はバスどころか対向車そのものがいないので、それを気にすることなく進んでいける。
だが、乗っていたバスは突然、右のウインカーを出した。「あれ?歩行者か自転車を避けるのかな?」運転手さんのすぐうしろという特等席から観ると歩行者も自転車もいない。「ん?工事でもやっているのかな?」日曜の朝から工事はやっていない。そのときバスは手前の交差点を右折した。「あれ?乗るバスを間違えた?」いや、始発のバス停から乗車しているからそれはない。「これはまずい、ここの交差点を右折すると降りるバス停からはかなり距離がある。遅刻する!どうしよう」と乗車したバス停から現在地までが走馬灯のように脳裏を横切り、この先にある遅刻という現実をどう処理するかなどをバスが右折している短い間に考えていた。
すると、アナウンス用のマイクからつぶやくように聞こえてきたのは「あっ、間違えた!」という運転手さんのダダ漏れの心の声だった。そこからの運転手さんはここに来るまでの落ち着いた雰囲気の運転手さんとは別人のようになり、マイクから「あっ、あっ、す、すみません、み、道を、間違えてしまいました。」という報告であった。それと同時に後方に座っている井戸端会議組が、「あ~あ~道、間違えたんですって~」「あ~そ~なの~」「あらやだ~」と定番の返し。その返しが、運転手さんの動揺っぷりに拍車を掛け、右折した先の右手にあった中学校の狭い裏門へと誘った。おそらく運転手さんは焦っている中で目に飛び込んできたのが、何故か日曜日なのに空いていたこの裏門だろう。が、かなり狭くバスが入ったら身動きが取れなくなるのは明白だった。そこで、スイッチバックをしようとバスは前進で入ったので、バックで出るためにはつい先ほどまで通っていた道を、走行している車両がいないタイミングで後退しなければならない。しかもハンドルを左に切らなければスイッチバックにならない、ただ、ハンドルを左切れば右のミラーが壁にあたってしまう。最悪の状況だ。その間も運転手さんの「あっ、あっ」という心の声はダダ漏れである。予想通り右のミラーが壁にあたってガリガリ音を立てる。その音を聴いた井戸端会議組が「あ~あ~あ~あ~」と。さらに運転手さんは焦る。地獄絵図だ。
この状況を打破するためには誰かがバックを誘導するしかないと思い「うしろを観ましょうか?」と声を掛けようとした瞬間、乗降口の扉をたたく音が。
焦ってる運転手さんが乗降口の扉を開けると、そこには細身の中年男性が立っていた。その細身の男性は「後ろ見るから!」と一言。救世主の登場である。焦る運転手さんは「お願いします」と言うと、救世主の登場で落ち着きを取り戻したのであろうか、ミラーをぶつけないようにハンドルを微調整しながらバックをし、無事にスイッチバックを完了させた。そこで疑問に残るのが細身の男性の正体だ。スイッチバックをした後、周囲を見渡すと同じバス会社のバスがハザードを点滅させて止まっていたのである。そう、救世主は同じバス会社の違う路線を運行していたバスの運転手さんだったのだ。その運転手さんのおかげで、事なきを得てバスは本来の運行路線に復帰ができた。日曜日のおかげで予定通りの時間プラスαでいつも降りるバス停まで無事たどり着き、遅刻すること無くいつも通りの一日が始まった。
何事にも時間には余裕を持って行動できると良いですよね。
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